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「ロイエンタール、余をひとりにしないでくれ」



 失うべからざるものを失った男の孤独を、ロイエンタールは知っている。
ロイエンタールの知る男は世を恨み、酒に溺れ、息子を罵った。そして己は生まれた瞬間に失ったようなものだ。

 ただただ魂が凍える。ちょうど降り出した冬の雨のように芯まで凍えさせるのだ。
 黄金の有翼獅子は、滴るワインも割れたグラスもそのままに、ロイエンタールの眼前でその翼をたたみ小さく震えていた。

 ああ、この青年も魂を凍えさせているのだ。

 ロイエンタールは色の異なる両の瞳を閉じ、ふるりと身を震わせた。

 銀河の覇者たらんとしている青年が自分を求めているのは恋情ではないだろう。
ロイエンタールが他の幕僚たちよりもいち早く青年の孤独に気が付いたように、青年もまたロイエンタールの孤独を感じ取っていたのだろう。
凍えきった魂に恋情は熱すぎる。

 だから凍えきった者同士、わずかな熱を分け合い寄り添うことを求めているのだ。


 かつて危惧していた青年の「弱さ」や「脆さ」を目の当たりにしたことになるが、ロイエンタールは呆れも叛意抱かなかった。

 それは不思議な感情であった。
青年に寄り添いたいと、そう感じた自分に驚くほどだ。


 雷鳴の後に雨が強く降り始め、窓ガラスを叩く。

 この青年に跪いた日も雨が降っていた。

 窓を叩く雨を眺めてから吐息をひとつ、ロイエンタールはテーブルナプキンを手にし、青年の手を取り滴るワインをふき取る。
青年はただ静かにそれを眺めている。

 常であればその奥底に炎を湛えた蒼氷色の瞳は悲しみと孤独に揺れていた。
ワインを拭き取ったロイエンタールはそれでも青年の手を放すことはなかった。
テーブルナプキンを置いたロイエンタールは長身を屈め、白い手に己の額をそっと当てる。

「御意のままに、我が皇帝」

 小さく低い囁きはそれでも雨音に消されることなく、青年の魂に響いた。

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 雷鳴と雨音は止まない。

 かつての夜を思い起こす音にロイエンタールは奇妙な思いを抱えていた。
あの夜自分はこの青年の覇気に未来を託し、膝を折った。

 そして今、覇気に拭えぬ孤独のヴェールをまとった青年にロイエンタールは体を開こうとしている。

 だが、嫌悪は感じない。

 幼子が母親に縋るように青年がロイエンタールの首筋に顔を埋める。
色の道に疎い青年の行為はたどたどしく、快楽に慣れたロイエンタールには新鮮さを与えた。

 快楽に慣れているといっても、女色一辺倒だったロイエンタールに男色の経験はない。
 しかし、ロイエンタールと付き合った女性たちはみな色の道に明るく、ある程度慣れた者が多かった。
そのため、彼女たちはこの美しい男を悦ばせようと技術と情熱をもって積極的に愛撫したのだ。
 ある意味、すでにロイエンタールは女性たちによって男性自身以外からの性感を開発されていたといってもいいだろう。

 ラインハルトの手はせわしなくロイエンタールの肌を摩り、唇や舌も同様に這わされるだけで、その技能は稚拙極まりない。

 しかし、ロイエンタールと青年の関係性がかつての性技に長けた女性たちよりも密であったからだろうか。
青年の行為はロイエンタールの官能を刺激するのに十分だった。


「ふっ・・・う・・・」

 ロイエンタールの息が上がる。
白皙の肌は紅く熱をを帯び、汗ばむ。
 それはラインハルトもまた同様だった。
 体を温める熱を分かち合いたいと、ただその一心で触れた肌だったが、みずからの行為で触れた肌はさらなる熱を産んでいる。
 それも、色の道では百戦錬磨と名高いロイエンタール相手にだ。並みの相手であっても男の欲は刺激されるだろうところが、この美しく矜持の高い男の息を上げさせているとなれば格別だ。
 
 互いの昂りが刺激となり、それぞれの興奮を呼んでいた。

 白い胸に浮かぶ小さな果実を食めば、そこは赤く色づきピンと存在を主張する。そこが快感を呼ぶことも知らず、ただ唇で触れたラインハルトだったが、ロイエンタールの肉体の変化や吐息の変化に気がつくと、唇で、舌で、掌で、指で、反応を確かめるように弄った。

「う・・・あぁっ」


 恋情ではない。それは確かだ。
 もとより、ラインハルトは恋情を知らない。今、彼の豪奢な金髪に手指を絡ませる金銀妖瞳の青年が、ラインハルトに忠誠以外の何を感じているのか、それも知らない。
 そして、己の金髪に絡む青年の手指が、己にどういう感情を与えているのか、それも知らない。

 孤独に凍える我が身を温めたいと触れた行為は、己の肉体と金銀妖瞳の青年に新たな熱を産む。

 冬の雷鳴も、雨音もどちらももう互いの耳には届かない。

 熱された吐息と切れ切れの声、そして熱だけがそこに存在していた。




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ぎゃふん!尻切れでごめんなさい!
このままエロス突入しようとしましたが、DTカイザーがどんな風にしたらいいのかわからない挙句に暴走して、暴発するギャグオチになりかけたので、ここまでと致しました。

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