目の前に男がいた。ベッドに仰向けに横たわり、じっと自分を見つめている。その瞳には驚きの色が浮かんでいたが、シャツのボタンをひとつずつ、見せつけるように脱いでいけば、そこには情欲の炎が漂い始めた。
 シャツの前をすっかりとはだけた自分はゆっくりとベッドへと上り、男の腰辺りにまたがる。シャツは羽織ったまま、下着を外して白い乳房を見せつける。
 男の喉がごくりと鳴った。
 だが、男の手はまだシーツの上で大人しく伸ばされたままで、晒した白い肌には触れようとしない。男と自分の関係性を思えば、そうそう積極的に手を伸ばすとも思えない。シーツの上の男の手に自分のそれを重ねると、自らの胸元に導いた。
 男の瞳中の情欲はさらに燃え上がる。それは自分も同じだった。男の武骨な手を乳房に触れさせた時、じんわりとした快感が体を駆け巡り、知れず吐息が漏れた。

「・・・は、あ」

 掠れた小さな吐息が口火を切ることとなった。それまで能動的に動くことのなかった男は、重ねられた白い手を取り、強い力で引き寄せる。男の胸元に倒れこむ形になり、厚い胸板の感触を楽しむ間もなく、態勢が反転させられた。
 今、シーツを背にしているのは自分だ。男の情欲に燃える瞳が近付く。この瞳が欲しかったのだと、白い手を伸ばし男の目元に触れようとするが、それは叶わない。
 唇を奪われたからだ。男の厚い唇が自分のそれを食む。食らい尽くすという表現がぴったりと合いそうな口づけだった。
 角度を変え、何度も唇を合わせる。隙間からねじ込まれた男の舌が歯列を愛撫する。

「ん、ふ…うっ」

 口づけの合間から甘い吐息が漏れだす。男に下唇を甘噛みされたその、体の内側からじわりと蜜がにじみ出るのを感じた。




「・・・・・・っ!」

 ロイエンタールは小さく悲鳴を上げ、跳ね起きた。額に汗が滲み、ダークブラウンの髪が幾筋か張り付いている。確かめるように自らの胸元を触るが、そこに柔らかなふくらみはない。

「夢、か・・・」

 そう呟いて、ロイエンタールは長く息を吐いた。額に張りついた前髪を整え、薄暗い室内を見渡せば、通信端末の受信を知らせるランプが点灯していた。


 帝国歴489年5月、第8次イゼルローン攻防戦が起こった。要塞をワープさせ難攻不落のイゼルローン要塞に当たるという作戦は、魔術師の手により失敗へと導かれた。作成司令官のケンプは崩れ落ちるガイエスブルク要塞と最期をともにし、ミュラーも重傷を負った。追撃にかかる同盟軍からミュラーらのため、ロイエンタールとミッターマイヤーは救援に赴き、見事逆激に成功した。
 帝国軍は戦闘宙域を脱し、帝都オーディンへ向かっている。その途上、ロイエンタールは兵たちに交代で休息をとるよう命じ、自らも司令官室でわずかな睡眠をとっていたところだった。

 現在の状況を振り返り把握すると、ロイエンタールはのろのろと立ちあがり通信端末をオンにした。受像した映像が暗がりに浮かぶ。その顔を見て、どきりとした。

「閣下、お休みのところ失礼します。ミッターマイヤー閣下より通信が入っておりますが」

 夢の中の男の顔がそこに浮かんでいた。先のリップシュタット戦役の後にロイエンタールの幕下に加わった男、ベルゲングリューンだ。
 この男の武骨な手指が、厚い唇が、そして情欲に燃える瞳が欲しい。
 夢で感じたのと似た感覚がぞくぞくとロイエンタールの背を這いあがる。吐息が漏れてしまいそうだった。

「…?閣下?お加減が悪いようでしたら…」

 訝しげに声をかけられ、はっとした。自分はいったい何を考えていたのだろうか。長く息を吐く。抱いてしまった相応しからぬ感情を振り払うかのように頭を振り、映像の男を見つめた。
 男の瞳には怪訝な色があるだけで、そこに情欲の炎はない。当たり前だ。自分は男で、彼も男で、そして上官と部下なのだ。

「すまん、寝起きで呆けていたようだ。ミッターマイヤーからの通信だな?こちらへ回してくれ」

 何もあるはずがない。そして何も感じるはずがない。ロイエンタールは自分に言い聞かせる。切り替わった映像は親友へと変わる。屈託なく笑う姿に胸が痛んだ。


 きっとレッケンドルフも休憩中なんですよ。だからベルゲンがロイを起こしたわけで。
 いいなぁ、寝起きのロイさん(しかも淫夢後!)、私も見たいよ!ベルゲンが羨ましい!

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