ロイエンタールが奇病を宣告された頃、シャフト技術大将はラインハルト・フォン・ローエングラム元帥の元を訪れ、要塞移動作戦を提案していた。
ラインハルトはこれに乗り、第8次イゼルローン攻防戦へと帝国の歴史は駒を進めることとなる。

 アムリッツァ会戦以来の同盟軍との大きな戦いである。
相手は門閥貴族とはいえ「同士」討ちとなったリップシュタット戦役は、ジークフリート・キルヒアイスの死も加わって、諸将らに後味の悪さを覚えさせる。
そのせいもあり、「やっとまともな戦争だぞ!」と血気盛んなラインハルト麾下の諸将らは不謹慎ながらも心躍るのを感じていた。

 ミッターマイヤーもその一人だ。
親友ロイエンタールの体調不良を知った時は「結婚だなんだの」と浮かれた我が身が情けなく思うと同時に、親友の不調を我が事のように落ち込んだものだが、どうにも彼は復調したようで、戦支度で忙しい軍務の合間を縫って酒の席に付き合ってくれる。

 門閥貴族を打倒し、新体制を築く重要な時期であるから、「戦などやっている場合ではないだろう」とミッターマイヤーの理性は囁く。
しかし、彼の心に住まう少年は「俺がやっつけてやる!」と意気揚々と拳を掲げるのだ。

 「まともな戦争」に加えて、親友の復調と、ミッターマイヤーの心に住まう少年はは嬉しくて仕方がない。



 今宵も海鷲で親友と酒を酌み交わす。

「いや、それにしても卿が元気になったようで何よりだ。なにやら厄介な病なのではないかと気が気でなかったのだぞ」

 朗らかに笑うミッターマイヤーに親友は「是」とはっきりとは答えず、色の異なる両の瞳をかすかに伏せ、自嘲気に笑うだけだ。
だがこれもいつも通り、この天の邪鬼で偏屈な美しい親友ならではとミッターマイヤーはいささかの不信も抱かず受け入れた。

 確かにロイエンタールは体調を崩す以前と何ら変わるところがない。
漁色は絶っているようだが、軍務に忙しい折に女性を求めないというのはままあることであったし、親友とはいえ秘密主義の気があるロイエンタールが開けっ広げに毎日の性生活まで話すわけがなかったので、ミッターマイヤーはこの点を不信に思うことはなかった。

 ミッターマイヤーが口火を切り、ロイエンタールが意味ありげな笑みや辛辣な言葉を返す。
まったくもっていつもとかわらぬミッターマイヤー、ロイエンタール両提督の酒席の姿であった。

 海鷲であるので、彼らのことをよく知る提督連中や幕僚たちもそこかしこにいるのだが、「いつも通りの彼らが飲んでるぞ」といった風情であった。

 件の診察後、医師より薬を処方された。
女色を大いに嗜んでいたロイエンタールも耳にしたことがある、
経口避妊薬、いわゆる「ピル」である。
避妊以外の適応があるなどロイエンタールは知らなかったのだが、医師いわく「月経痛や、月経前の気分不快など様々な症状を緩和する効果がありますので、閣下の症状のいくつかにも適応するでしょう」とのことだった。
どうやら専門医も使用を推奨しているらしい。
「カウルマン=ヘンケル症候群治療指針」なる文書にそう書かれているそうだ。

 毎日欠かさず服用するというのは、慢性的な病気を患ったことのないロイエンタールにとって煩わしいことこの上なかったのだが、この不愉快極まりない病気の不愉快な症状がわずかでも治まるということならばと服用を続けていた。
その甲斐あってか、一月の間彼を悩ませた倦怠感や集中力の低下は治まり現在のようにいつもと変わらぬ様子でいられる。

 この戦そのものや、要塞移動作戦にはいくつかの疑問があるものの、滞りなく軍務をこなし戦いに臨めることは嬉しいものだ。
ミッターマイヤーや他の提督たちと同様に戦いに心躍る部分もある。
 戦いを前に心躍らせ、親友と杯を酌み交わす。「これぞ男のロマン」といったところか。

 冷笑と毒舌に覆い隠してはいるものの、ロイエンタールは現在の状況を嬉しく思っていた。


 しかし、病魔は確かにロイエンタールの肉体を冒していく。
 

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 原作が手元にないので色々とうろ覚えです。ごめんなさい。

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