オスカー・フォン・ロイエンタールという男は相当な格好付けである。
 自分は女嫌いだと言っておきながら、女好きする仕草や服装をし、これまた女好きする店に短期間の愛人を連れて行く。
 女が寄ってくるのが嫌なら、軍規に外れぬ程度に身なりを整えたり、「初めてのデートであそこはねぇ〜」と女が眉を顰めながら話すような程度の店に連れて行けばいいものを、矜持だなんだと言って格好付ける。
なまじ容姿が整っていて、懐も大層豊かであるため、ロイエンタールの格好付けは女にとって好ましいものに映る。
 世の女たちがロイエンタールにうっとりとなる中、ミッターマイヤーは「そこまで格好付けなくてもいいだろう」と呆れてしまうのだった。


 先日も、愛妻エヴァンゼリンを伴って、たまには外食デートと洒落込んで出掛けた先で親友に遭遇した。えらく美しい金髪の女性を伴っている。出掛けた先の店はレストランというほど格が高いわけではなく、親子三代でやってますという家庭的な雰囲気とよく煮込んだタンシチューが売りの店で。男性はノータイ可、女性もせいぜい着飾ったところでワンピースくらいが相応しいような。
 ミッターマイヤー自身もデニムにTシャツ、ジャケットを羽織るくらいで、エヴァンゼリンも緩やかなライン(ロイエンタール曰わく、エンパイアラインとかいうものらしい)のワンピースで出掛けていた。若いカップルがちょっとオシャレしてデートしていますといった風情だ。
 今日のエヴァンゼリンはいつにもまして可愛らしいなぁと、向かいの席の愛妻に心癒されていると、自分たちとは反対側の壁よりの席にロイエンタールが美女と座っているのが見えた。
 背中越しなのでロイエンタールはジャケットを羽織っていることぐらいしかわからない。向かい合う女性は女性らしいジャケットと細身のパンツ姿だ。

「あなた?タンシチューは量が多いそうだから、半分こにしない?」

 エヴァンゼリンに話しかけるまで気がつかないほどにロイエンタールを凝視してしまっていたようだ。

「ああ、すまない。エヴァンゼリンの言うとおりにしよう」
 
 申し訳なさげに首の後ろを掻きながら答えるミッターマイヤーにエヴァンゼリンは木漏れ日のような優しい笑みを浮かべた。


 凝視されていたロイエンタールはといえば、ミッターマイヤー夫妻よりもあとから入店していたため、とっくに彼らの存在に気付いていた。
 こちらも女連れ、野暮なまねはするまい。というよりも、いつも通りそれ程真剣な交際でもない女をミッターマイヤーに見せたくないし、女にミッターマイヤーを紹介したくもない。
 ミッターマイヤーは俺のことが気になっているだろうな、と背中に突き刺さる視線を感じてロイエンタールはほくそ笑んだ。
 そんなロイエンタールの笑みに同伴女性ははっと見惚れてしまう。神に恵まれた美貌はロイエンタールが意図しようがしまいが、周囲に影響を与えるのだった。


 店の名前の付いた魚介のサラダは、何やら緑の謎のソースがかかっており、一瞬戸惑ったミッターマイヤーだったが、口にした途端にその美味さに感動した。
 他にもお勧めというカツレツや、何といっても自慢のタンシチューは絶品で、皿に残った分まで付け合わせのパンで拭って食べた。カツレツの付け合わせの焼き野菜はシンプルに塩コショウだけの味付けだったが、素材本来の甘みと焼き野菜のホクホク感が絶品だった。
 デザートのクレームなんとかというプリンのようなものはエヴァンゼリンのお気に入りのようで、嬉しそうに笑いながら口にしている。
 ワインも美味かったし、食後のコーヒーの口当たりのいいもので、満腹であったこともあり、ミッターマイヤーは大満足だった。何より愛妻の笑顔が見られるというところが最高だ。

 さて、腹が膨れれば再び気になる友人の姿。
 まさか、こんなカジュアルな店でスーツはないだろう。いや、あいつのことだから気取ってタキシードでも着ているかもしれない。
 恰好つけイコール上等のスーツもしくはタキシードというのがミッターマイヤーの図式である。
 すでにミッターマイヤー夫妻とロイエンタール達以外は食事を終え、店を出て行ったようだ。古いジャズの流れる店内はごく静かで、お互いの話し声も聞こえるほどだ。
 ミッターマイヤーはあちらの様子が気になって耳を澄ます。
 あいつらどんな会話してるんだ?
 まさか、「薄暗いキャンドルの灯りでは君の美しさがよく見えないな」とか「君の瞳に乾杯」とか言っているんじゃあるまいな。
 ミッターマイヤーにとっての気の利いた口説き文句なぞこの程度である。


 一方、ロイエンタールもまた粗方食事を終え、食後のコーヒーを楽しんでいた。
 話しているのは主に女性の方で、ロイエンタールはその言葉に相槌を打っている。話そのものは流行りのファッションや女の友人の噂話といったもので、ロイエンタールにとっては退屈以外の何物でもない。
 しかし、くだらない女の話にも表向きは興味深げに相槌を打ったり、ところどころ質問を投げかけている。
 さらにそこに薄い微笑も加わっているのだから、女にとっては幸せこの上ない。


 ちらほらと漏れ聞こえるあちらの会話を聞いて、ミッターマイヤーはむずがゆい感覚を抑えられない。
 絶対にロイエンタールは女性の話を面白いなどとは思ってはいないだろう。にも関わらず、素敵な彼氏然として一方的な話を聞いている。
 以前見た女性向け情報番組(エヴァンゼリンの好みだ)で、女性が望むのは聞き上手な男性であると言っていたが、まさにそれを地でいっているようだ。
 どうせ1週間〜2週間ほど付き合って、飽きたから捨てるくせに、どうしてここまで恰好つけられるのか。
 さらに、その後飲みに行けば、「女というものはどうしてああも一方的にくだらない話をしかけてくるんだろうな。まったく理解できん」とか言って愚痴った挙句に、酔っぱらうくせに。


 その後、ロイエンタールと女性が店を出るのも見送ったが、絵にかいたようなエスコート振りに、ミッターマイヤーは大いに呆れてしまう。
 「女が勝手に寄ってくる」というが、それもこれも全部ロイエンタールが恰好つけるからだろう。それを愚痴られる身になってみろ。
 そして、ミッターマイヤーは心の中で呟くのだった。


「ロイエンタールの大馬鹿野郎!」と。


 それから2週間後、予想通りというか、例のごとくというか、海鷲でロイエンタールから件の女性について愚痴られ、ミッターマイヤーはあきれ返ってしまうのだが、それはまた別の話。



 双璧カプ要素なし。エヴァにお花のお土産とか、女嫌いのくせに女性受けしそうなサービスするよね、ロイって。きっと「そんな俺様カッコイイ」と思ってやってるんだよ。短期間の愛人にサービスもせず、ヤッてお終いだったらエルフリーデの前に刺されてると思う。

→Main
→Menu

inserted by FC2 system