程良く落とされた間接照明の灯りに照らされた二つの影が近付く。そのどちらもややぎこちない動きをしていたのは緊張のためだろうか。

「触れても構わんか」

 恐々と壊れ物にでも触れるような手つきでビッテンフェルトは手を伸ばす。滑らかな白い頬に触れ、細い顎のラインを辿る。

 ビッテンフェルトならば想いをぶつけるように激しく抱くのだろう。

 彼の人となりから何となくそのように想像していたロイエンタールはその意外に繊細な手つきに面食らった。驚くと同時に微笑ましく思う。そして、自身の体から力が抜けていくのを感じ、ようやく自分自身も緊張していることに気がついた。
 生娘のような心地でいた自分がおかしい。

 何を恐れ、何に怯えるというのか。

 ビッテンフェルトに触れたいと願ったのも自分であるし、「行為の受け手」に回ることを決断したのも自分だ。自身の魂が望んだ結論に何を抗おうというのか。


 微かに震えるビッテンフェルトの左手に自分の右手を添え、ロイエンタールはうっそりと微笑んだ。

 「ビッテンフェルト、俺は壊れ物のガラス細工でもないし、清らかな処女でもないのだぞ」

 だからもっと、と言外に誘うような色を匂わせて低く囁けば、ビッテンフェルトは触れられた手をきつく握りしめ瞠目した。
 そして湯気が上がらんばかりに顔を赤くする。

「心底惚れているのだ、俺は」

 握り締めたロイエンタールの右手に口付け、ビッテンフェルトは苦しげな吐息混じりに呟いた。

「…心底、惚れているのだ。卿を辱めたり、貶めることはしたくない」

 喉元まで上がってきた軽口や、頬に浮かびかけた冷笑は、見つめらる視線に溶かされて消えた。。彼の明晰な脳細胞は、常と同じ活動を再開しようとしない。

 ロイエンタールにとってそれは驚きと言ってもいいような衝撃だった。心の底から、魂から、ビッテンフェルトに触れたい、触れられたいと願ったものの、どこかに冷えた感情が存在していた。「所詮は肉欲」と凍えた魂が告げていた。
 だが、目の前に瞠目し顔を赤らめる男はどうだ。彼の肉体を見れば、そこに欲が存在していることは容易に窺い知れる。とが、彼は留まっている。肉体の底にみなぎる熱を押し込め、留まっていた。
 この熱は、ロイエンタールが知っている「肉欲」とは異なる。女の肌から得られた一過性のそれではない。
 魂の底に辿り着き、凍土を溶かす。地表を温める陽光の輻射熱は、日の射さぬ間も留まる。そういう熱だ。
 ロイエンタールは体の奥底に「肉欲」とは異なる未知の熱を感じ、ふるりと身を震わせ息をついた。
 そして、改めて願う。目の前の男に触れたい。触れられたい。魂を温めて欲しいと。

「…だから、俺は清らかな処女ではないのだぞ」

 吐息の後にロイエンタールはするりとビッテンフェルトに体を添わせ、耳元に囁く。

「俺が、望むのだ。卿のすることが俺を辱めることや貶めることのあるものか」


 ロイエンタールが微笑みながら言い終えるのと、ビッテンフェルトが彼の右手を振りほどき、きつくその体を抱きしめるのはどちらが早かったろうか。
 抱きしめられたロイエンタールはその腕のきつさに呻き、ビッテンフェルトは慌てて腕を解く。しかし、見つめる金銀妖瞳は決して「否」とは訴えておらず、ビッテンフェルトは行為を続けた。
 「行為の受け手」となるという複雑な心境を抱えつつ挑んだ夜であったが、ロイエンタールはかつてない歓びとともにビッテンフェルトの行為を受け止めた。ビッテンフェルトの手つきはたどたどしく、ロイエンタールの「良い所」に辿り着かないこともしばしばであったが、そのようなことはどうでもよいとさえ思えるほどに熱く、ロイエンタールの肉体と魂を温めた。


「ロイエンタール、ロイエンタール……ロイエンタール」

 何度も名を呼ばれることがこれほどに熱いと感じたことはない。

 ビッテンフェルトの手が、腕が、胸が、体の全てが、そして魂の全てが、ロイエンタールに熱を与えていた。



 ビッテン×ロイ補完!
 どうにも台詞が臭くなるのは、最近ヅカをみているせいですw

 ビッテン×ロイだと、ここでロイの魂が救済されて補完されちゃうから、叛逆って起こり得ないんですよねー。

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